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大館の山並みを背に、白く大きな屋根が地面からふわりと持ち上がっています。遠目には、巨大な卵を伏せたようにも、雪をいただいたなだらかな丘のようにも見える建物です。
秋田県大館市の「ニプロハチ公ドーム」。条例上の名称は「大館樹海ドーム」で、現在は命名権による名称とともに案内されています。
ここは野球場であり、多目的競技場であり、地域の催しを受け止める大空間でもあります。
しかし、この場所を訪ねる面白さは、開催されている競技や催しだけではありません。見上げれば、地元の秋田杉からつくられた巨大なアーチが幾重にも交差し、その上を白い膜屋根が包んでいます。
木でこれほど広い空間を覆えるのか。その驚きこそ、ニプロハチ公ドームで最初に味わいたい体験です。
雪の多い土地に、なぜ巨大な屋根付き空間が必要だったのか。秋田杉はどのように建築へ姿を変えたのか。そして、独特の卵形にはどんな理由があるのか。
背景を知ってから眺めると、ドームは単なるスポーツ施設ではなく、大館の気候、森林、ものづくりが結びついた建築として見えてきます。
まず見たいのは、競技場を包む木の大空間

ドームの外形は長軸178メートル、短軸157メートル、最高高さ52メートル。内部のアリーナだけでも約1万2,915平方メートルあります。
数字だけでは大きさを想像しにくいものの、客席側から屋根の端をたどり、反対側まで視線を送ると、その距離が実感できます。広い人工芝の上に柱が林立していないため、屋根全体がひと続きの空間として迫ってきます。
視線を上げると、白い屋根の内側に木の骨組みが広がります。体育館の梁を太くした程度のものではありません。大断面の集成材を用いたアーチが二方向に組まれ、曲面を支えています。
温かみのある木の色と、透光性のある白い膜を通った柔らかな明るさの組み合わせは、巨大施設にありがちな重々しさを和らげています。
この建築では、屋根を「覆い」として眺めるだけでなく、力を受け渡す骨組みとして見るのがおすすめです。太い部材だけを追うのではなく、アーチ同士が交わる節点、下部の鉄筋コンクリートへ力を伝える足元、膜屋根との間に設けられた細かな部材にも目を向けてみてください。
遠くからは一枚の滑らかな屋根に見えたものが、内部では無数の部材の組み合わせとして立ち上がります。
正面ロビーや観客席から見える範囲でも、空間の大きさと木造架構の表情は十分に印象的です。さらに2階には施工過程を紹介する展示コーナーがあります。利用状況によって見学できる範囲が変わるため、建築を見る目的で出かける場合も、入館や見学の可否を事前に確認しておくと安心です。
客席は内野と外野を合わせて5,040席。アリーナも使う催事では最大1万5,000人を収容できる規模です。
それでも内部が冷たい箱に感じられにくいのは、頭上に木の色と木目が見えるからでしょう。巨大さを数字で確認したあと、今度は自分の身体を基準にして、客席一列の幅、アーチの太さ、屋根までの高さを見比べると、スケールの違いが鮮明になります。
「大館樹海ドーム」という名称は、一般供用に先立つ1996年、2,947点の応募から選ばれました。現在の案内名称に「ハチ公」が入り、大館が忠犬ハチ公のふるさとであることを伝える一方、条例上の名称には今も「樹海」が残ります。
森を思わせる名と、内部に広がる木の架構。その二つが重なることも、現地で初めて腑に落ちる点です。
雪国の冬にも、体を動かせる場所をつくる

大館樹海ドームの計画が動き始めたのは1990年代初めです。建設の大きな目的は、天候に左右されず、冬季にも利用できるスポーツ・レクリエーション・文化の拠点をつくることでした。
積雪寒冷地では、屋外競技の練習や地域行事が冬の気候に制約されます。広いグラウンドを丸ごと屋根の下に収める発想は、雪国の日常から生まれたものでした。
1995年に工事が始まり、1997年6月に完成。同年8月から一般供用が始まりました。主用途は野球ですが、アリーナはサッカー、フットサル、陸上競技、テニス、バドミントンなどにも対応します。客席の一部を動かせるため、競技だけでなく、大規模な文化催事や地域行事にも空間を転換できます。
全天候型という言葉から、単に雨や雪を防ぐ建物を想像するかもしれません。
しかし、巨大な屋根には雪国ならではの工夫があります。二重の膜屋根の間に温風を送り、雪を滑らせたり融かしたりするとともに、結露を抑える仕組みが採用されています。屋根の形だけで雪に耐えるのではなく、膜の間の環境まで整えることで大空間を守っているのです。
透光性のある膜は、昼間の自然光を内部へ柔らかく届けます。冬、屋外が雪に閉ざされる日でも、木の架構の下には明るい運動空間が広がります。ここで注目したいのは、厳しい自然を完全に遮断するのではなく、雪や風への対策を組み込みながら、光は取り入れていることです。その考え方が、巨大なドームに土地とのつながりを残しています。
建設当時、ドームは大館市だけの体育施設ではなく、県北地域の広域的なスポーツ・レクリエーション拠点として構想されました。屋根付きグラウンドを一つ増やすというより、冬の活動を支え、競技力の向上や交流の場づくりへつなげる計画だったのです。
学校の活動や子どもの遊び場、地域の大きな行事にも使われてきた現在の姿を見ると、雪国の「できない季節」を少し短くする建築だったことが分かります。
約2万5,000本の秋田杉が、一本の森のような架構になる

屋根架構には、米代川流域の樹齢60年以上、直径20センチメートル以上の秋田杉が約2万5,000本使われました。ただし、丸太をそのまま曲げて並べたわけではありません。木を板状に加工し、品質を確かめながら重ねて接着した「集成材」にすることで、大きく、強度を管理しやすい構造材へ変えています。
秋田杉は、この地域を支えてきた森林資源です。大館を含む米代川流域では、林業と木材加工が土地の産業や暮らしと深く関わってきました。ドーム建設に必要な大断面集成材の生産も地域で進められました。
山で育った木が、製材、乾燥、選別、接着、加工という工程を経て、長大なアーチの一部になる。屋根を見上げると、森林資源と加工技術が一つの風景になっていることが分かります。
木材は一本ごとに性質が異なります。巨大建築に用いるには、見た目の美しさだけではなく、必要な強さを満たす部材を安定してつくる必要があります。集成材は小さな材料を組み合わせることで、自然素材のばらつきと向き合いながら大きな部材を実現する技術です。
ドームの木組みは、昔ながらの木造建築をそのまま巨大化したものではなく、木の可能性を工業的な精度で引き出した現代建築なのです。
近くで見ると、木の節や積層の線が残り、人の手で扱える素材だったことを感じさせます。
一方、少し離れれば、それらは連続する大きな曲線へ溶け込みます。「一本の木」と「屋根全体」の間を視線で行き来できることが、この建築ならではの楽しさです。施工の紹介展示も合わせて見れば、完成した姿の裏にある材料と技術の積み重ねを想像しやすくなります。
屋根の木造部分だけで建物すべてが成り立っているわけではありません。下部には鉄筋コンクリートが使われ、木のアーチが受けた力を支えています。客席付近で木の架構がコンクリートの足元へ降りていく場所を見ると、素材の役割分担がよく分かります。
木造かコンクリート造かを二者択一で考えるのではなく、それぞれの得意な性質を組み合わせて、この広さを実現しているのです。
卵形の屋根は、野球の飛球と季節風から生まれた

ドームを真上から見ると、きれいな円ではなく卵形です。横から眺めても、左右対称の半球には見えません。この独特の形は、見た目を印象的にするためだけのものではありません。野球の打球が描く軌跡を包む空間を考えながら、大館で吹く季節風や雪の影響も検討して形づくられました。
野球場は、ホームベース側と外野側で必要な空間が同じではありません。高く上がる飛球を妨げず、競技に必要な範囲を覆いながら、屋根を無制限に大きくしない。
その条件を追うと、均一な半球ではない曲面に意味が生まれます。外から屋根の稜線をたどると、競技空間の輪郭が建物の姿として現れていることに気づきます。
さらに、風を受け流す滑らかな曲面は、周囲の景観にも穏やかになじみます。日本建築家協会が竣工から25年以上を経た建築として評価した際にも、水辺から丘へ緩やかに上るランドスケープと卵形の建物がつくる風景に注目しています。
白い屋根は非常に大きいのに、角張った壁が威圧するのではなく、地面の起伏から続く一つの丘のように見えます。
設計は伊東豊雄建築設計事務所と竹中工務店が担いました。完成後、建築・構造・照明・施工技術などさまざまな面から評価され、長く使われてきました。賞の数を覚える必要はありません。現地では、外から見た柔らかな輪郭と、内側で交差する力強い木の架構が、同じ屋根の表裏であることを確かめてみてください。
見る位置を変えることも大切です。正面近くでは屋根の端が低く、全体像をつかみにくい一方、池や芝生を挟んで離れると、片側がゆっくり持ち上がる曲線を読み取りやすくなります。
近づいて材料を見る、離れて形を見る、内部で構造を見る。この三つの距離を行き来すると、巨大な屋根が一枚の殻ではなく、用途と環境から導かれた立体であることが伝わってきます。
競技の日も、何もない日も。目的を決めて訪ねる

ニプロハチ公ドームは観光展示だけを目的とした施設ではなく、今も競技、練習、教室、催事などに使われています。
野球では両翼90メートル、センター120メートルのフィールドを確保でき、サッカーやフットサル、陸上、テニスなどにも転換できます。大きな大会の日には観客席から競技と屋根を一緒に眺められ、地域行事の日には巨大な屋内広場としての性格が前に出ます。
個人でスポーツをする場合は、団体の占有利用がないときに共用できる仕組みがあります。ただし、利用できる種目や時間、見学可能な範囲は予約状況によって変わります。
おでかけする前に、ニプロハチ公ドーム公式サイトで当日の利用状況やお知らせを確かめておくのが確実です。
建築を主目的にするなら、まず周囲から屋根の高低と卵形の輪郭を眺め、入館できるときは木造アーチを見上げ、2階の施工展示へ進む流れが分かりやすいでしょう。屋外には天然芝の広場や広葉樹の見本林「語らいの森」もあります。
少し距離を取って歩くと、ドームが単独で置かれているのではなく、芝生、水辺、木立、遠くの山並みを含む風景として計画されたことが見えてきます。
大館駅方面から公共交通を利用する場合は運行本数が限られるため、往復の時刻を先に確認しておくと安心です。所在地や最新の交通案内は公式アクセス案内で確認できます。
周辺も合わせて巡るなら、大館市観光協会公式サイトで市内の見どころを見比べておくと、ドームを起点にした一日の組み立てがしやすくなります。
おすすめしたいのは、催事の有無を「当たり外れ」で考えないことです。大会や地域行事のある日は、建物が人の活動を受け止める様子を見られます。
利用の少ない時間に見学できれば、架構の反復や膜越しの光を落ち着いて観察できます。入館できない場合でも、園路を歩きながら外形と周囲の山並みを比べる楽しみがあります。
目的を一つに絞りすぎないほうが、この多目的ドームらしい時間になります。
まとめ|大館の木と雪が生んだ、見上げる価値のある建築

ニプロハチ公ドームは、スポーツのための大空間であると同時に、大館という土地を材料と形に映した建築です。
冬にも活動できる屋根が必要だったこと。地域の秋田杉を集成材へ変え、約2万5,000本分もの木を大きな架構にしたこと。
野球の飛球、季節風、雪を考えた結果、卵形の曲面が生まれたこと。その一つひとつに、この場所に建てる理由があります。
競技や催しに参加する日なら、人工芝の広さと客席のにぎわいを。
静かな日に見学できるなら、白い膜から落ちる光と木のアーチを。
屋外から眺めるだけでも、水辺や木立の向こうに浮かぶ屋根の輪郭を楽しめます。
用途が変われば見え方も変わる建物です。訪れる日は公式情報で利用状況を確かめ、その日のドームが見せる表情を探してみてください。
おでかけ前に情報をチェック
【お役立ちリンク】
- ニプロハチ公ドーム公式サイト
イベント、予約状況、施設からのお知らせ、利用案内を確認できます。見学を目的に訪れる場合も、事前に最新情報をご確認ください。 - ニプロハチ公ドーム|アクセス案内
所在地、駐車場、最寄りのバス停、JR大館駅や大館能代空港からの行き方が掲載されています。 - 大館市観光協会「大館というところ。」
大館市内の観光スポット、食、イベントなどを調べられます。ドームと周辺の見どころを組み合わせたいときに便利です。
